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今日も旅ゆく

好きなもの、思い出すことなど@express_shinano

10代最後の余裕のないクリスマス

10代最後のクリスマスを、わたしは浪人生として迎えた。

間近に迫るセンター試験のせいで焦燥感に駆られている時期だった。
周りの友達もみんなナーバスになっていて元気がない。自習室では浪人生が一人発狂して倒れた。救急車も来て大変な騒ぎになった。怖かった。


予備校は、福岡の繁華街の天神の果てにある。
ドロドロの精神状態で勉強する浪人生たちとは裏腹に、街はイルミネーションとカップルたちでキラキラしていた。
通学する朝はいい。豆電球が木にぶら下がっているだけなので、痛くもかゆくもなかった。
問題は帰りの夜。最寄りのバス停まで、イルミネーションで飾られた地下街を10分程歩いていかなくてはいけなかった。街が飾られるようになってから毎日忌々しい思いで歩いていた。


これまでも黒歴史を量産してきたが、10代最後の時期は特に「彼氏とかいらんでしょ!一人でも楽しい!リア充乙w」という、かなり拗らせた状態だった。本当に恥ずかしい。

選ばれる立場にいるような人間でもないのに、いらないというのは何様だろう。一人が楽しいなら楽しいでそれをいちいち公言するなと言いたい。
この時期にツイッターしてなくて本当によかった。今以上に香ばしいツイートを生んでいたと思う。

そんなことを言いながら、心優しいツンデレイケメンと付き合いたいと思っていたし、恋人がいる人が羨ましかったからなおさらたちが悪かった。


クリスマスイブ、予備校で自習を終えて帰路につく。街はいつもよりカップルがいて、めちゃくちゃ盛り上がっていた。舌打ちをした。乗るバスの運行状況を調べるとしっかり遅れている。これも全部この街にいるハッピー野郎たちのせいだと思った。舌打ちをした。

自分は行き場のない焦りを抱えているのに、脳内お花畑たちが街に溢れていて憎かった。いつも以上に地下街は人が多く、右も左もパーティー野郎ばかり。

地下街はやめて、地上の道を通って帰ろうと思った。地上の道は渡辺通という天神のメインストリートで、地下街よりもイルミネーションが多い。いつもは寒いし地下街よりキラキラしてるから避けていたのだが、地上ならこれほど混雑もないでしょ!と思った。


渡辺通を歩く。商業ビルのイルミネーションも気合が入っている。カップルも多い。ミスったなと思って、歩きながらふとバスが来る方向を見る。

乗るバスが遠くからこちらに向かっているのが見えた。運行状況だとあと20分程待たなくてはいけなかったから奇跡だ、地上歩いてないとバス来てるのもわからなかったし神の選択をしたなと思った。

しかしバス停まではまだもう少し距離があった。走らなければバスに抜かれ乗れなくなる。次のバスを待ちたくないから走ろう。そう思って走り始めた。


バスが近づいてくる。モタモタオタクなので足が遅い。それでも走る。必死の形相で輝く街中を走る。バスを見る。バスが信号で止まった。バス停はすぐそこ。勝った…そう思ってスパートをかけた瞬間、片足の靴がスポンと脱げた。
パンプスが後方に落ちた。わたしは驚いて前のめりで止まった。

ここは天神のメインストリート。しかも聖夜だ。周りはカップルばかり。わたしはひとり。数組のカップルが何が起きたの?と言いたげな表情でわたしの靴をちらっと見る。
もちろん誰かが拾ってくれるわけもなく、自分で靴を回収しにいく。
一人シンデレラだ。
久々に走って息も切れている。ゼエゼエ言いながら靴を履く姿は、誰も見ていないと思うが、我ながらとても滑稽だった。
惨めで心が折れるかと思った。

そんな中、バスの音が聞こえた。
そうだ、バスに乗りたくてこんなことになったんだ。これに乗らなきゃ意味がない。
バスに駆け込む。間に合った。息を切らして周りを見ると、チキンやらプレゼントやらを持った幸せそうな人がたくさんいた。ハアハア顔を赤くしているのはひとりだけで、心が挫けた。
せっかくの10代最後のクリスマスをこんな形で迎えるとは夢にも思っていなかった。そのあとはケーキを食べて勉強もそこそこに寝た。翌日はしっかり筋肉痛になった。


この間の日曜日、久々に天神に行った。
相変わらず街はイルミネーションでキラキラしていた。
帰りのバスを待っていたら、韓国人観光客にタワー行きのバス停の場所を尋ねられた。
身振り手振りも拙い英語も理解してもらえず、結局バス停まで連れて行った。
お礼にと温かい缶コーヒーを貰った。

二人と別れると、わたしの隣を乗るはずのバスが通り過ぎて行った。
走ろうかとも思ったが、奇しくもそこは靴が脱げた場所と同じだったので、走らないことにした。
次のバスを待とう。
今は無職ということもあるけれど、むやみにバスに駆け込まず、次の便を待つ、そんな余裕がある人の方が美しいと思った。
浪人のときのわたしに教えてあげたい。