3~4月は連日深夜帰りで、土日も仕事に出ることがほとんどだった。仕事が片付いていないという事実があるからやむを得ないが、心は静かに死んでいく。
GW初日の土曜日も職場に行くつもりだった。あくまで「自主的」な出勤のため、時間の制限はないから、9時半くらいまでぐっすり寝ていた。もそもそとベッドから這い出し、遅い朝食を食べ、洗面を済ませ、化粧台に向かったのは11時近く。鏡に映った外はやけに天気が良く、空気も澄んでいた。
明日もどうせ出勤するんだからと綺麗に片付けなかった職場のデスクを思ったとき、心の底から「なぜ、今日仕事に行かなくてはいけないのか」と思ってしまった。一度思ってしまったが最後、もうあとはひたすら行きたくない。
GWは10連休だ。明日からは天気も崩れるらしい。旅に出るなら今日しかない。仕事は今日行かなくても、別の日に行けばいい。
そう思ったとき、以前から行ってみたいと思っていた長崎県にある大村線「千綿駅」が浮かんだ。青春18きっぷのポスターにも採用されたことのある、海に面した駅だ。珍しく霞もないこの晴天だ。きっと青が美しいに違いない。しかも、この時間から出ても日帰りで行けるギリギリの距離だ。
両親には「仕事に行く」と言って、一眼レフを鞄にしまい、博多駅へと向かった。
GW初日とあって、博多駅は大変な混雑だった。車内で食べるパンとコーヒーを買い、特急つばめを待つ。指定席は予約で満席だったため、自由席の列に並んだ。雲仙普賢岳や有明海を臨める、進行方向左の窓側の席を狙っていたが、無事に確保でき、一安心する。乗換駅である諫早駅まで、あとは音楽を聴きながら、車窓を眺めるのみ。
つばめは博多駅を出発した。私はこの出発の瞬間がたまらなく好きだ。
佐賀平野の広大な田畑とクリーク、有明海と遠くに見える対岸の福岡の風景を横目に、つばめは走って行く。
長崎本線は、雲仙・普賢岳が間近に見える。普段は晴れて、空気の澄んだ日にその山容を確認する存在を近くで捉えることができ感動する。裾野も広大で、また、珍しい山の形に畏怖を覚える。
そうこうしているうちに諫早駅に到着した。ここで大村線に乗り換える。
諫早から千綿駅までは六駅、区間快速に乗ったので、二五分ほどで到着した。
松原駅を出ると、電車は左手に海を望む。大村湾だ。
千綿駅に着いた。下車したのはわたし一人だったが、駅には写真を撮りに来ている人がたくさんいた。女性グループが多く、インスタに載せる写真を撮っているようだった。日頃、インスタ映えだハッシュタグ作文だと物申している身であるが、この景色だ、誰かに共有したくなる気持ちもわかる。
路線向こうに、一面の青が広がっていた。凪いだ水面に太陽が反射して、きらきら光っている。
千綿駅の駅舎は木造で、とても趣深い造りだ。今は駅舎に「千綿食堂」というお店が入っていて、そこで食事を楽しんでいる人もたくさんいた。駅の仕事も一部担っているようで、切符もここで購入できるという。
ひとしきり海の写真を撮ったあと、せっかくなので千綿食堂に入った。ホットコーヒーと帰りの切符を購入する。駅らしさを残した内装で、外界よりもゆっくりと時が流れていた。お客さんの一人が「とてもいい場所ですね」と店員さんに声をかけていた。わかる、わかるよ、と心の中で賛同した。
帰りの時間の関係上、千綿駅の滞在時間は一時間ほどだった。千綿食堂を出て、ホームのベンチで列車を待つ。眼下に広がる海を見ていると、さわやかな風が頬を撫でた。
久々に、のんびりとした時間を過ごしている。いつも何かに追われている気がする日常から遠く離れて、最近、余裕がなかったんだな、と改めて痛感する。人生一度きり、仕事ばかりしていられない。近場でも遠方でも、またこうして旅に出ようと思った。
名残惜しいが、帰りの電車がやってきたので乗り込む。行きと同じルートをとって、博多まで出た。
時間を割いて観光するわけでもなく、車窓と、見たかった景色を見るだけの短い日帰り旅。ただ、ぼーっと流れていく景色を見て、旅先の素敵な風景に出会うだけで、心はずっと軽くなる。
いろいろと、疲れたときこそ外に出よう、としみじみ思った旅だった。みなさんも、思いついたらふらり、と旅に出てみてほしい。海の見える駅なんかが、特におすすめです。(了)
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令和元年5月26日
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日曜日に更新するような記事じゃなかった気しかしない
(働きたくない)